IL GATTO A NOVE CODE
わたしは目撃者

Also Known As : The Cat o' Nine Tails (1970), Die Neunschwanzige Katze (Germany), Le chat a neuf queues (France), De Nihalede Kat (Denmark), De Kat de Negen Staarten (Holland), Kilencfarku Macska (Hungary), O gato das sete vidas (Portugal), El gato de las nueve colas (Spain)

"That's right,smile. Smile. A man is dead."
 -Rightto, the photographer

Cat o' nine tails

1970 Color (Technicolor)

 



[STAFF]

監督:ダリオ・アルジェント
制作:サルバトーレ・アルジェント
製作:セダ・スペッタコリ/モンディアル・フィルムス(ローマ)、テラ・フィルムクンスト(ミュンヘン)、ラブラドル・フィルムズ(フランス)
配給:ナショナル・ゼネラル・ピクチャーズ、フォックス
脚本:ダリオ・アルジェント、ルイジ・コロ、ダルダーノ・サセッティ
撮影:エリコ・メンチェール
音楽:エンニオ・モリコーネ
美術:カルロ・リーバ
衣装:カルロ・リーバ、ルカ・サバテッリ
編集:フランコ・フラティチェリ
メイクアップ:ジュゼッペ・フェランティ、ピエロ・メカッキ
メイクアップ助手:ビンチェンゾ・マルケッティ
ヘアメイク:マウラ・ターキ
制作主任:カルロ・デ・マルキス、ジュゼッペ・マンゴーナ
音響効果:ルチアーノ・アンゼロッティ
マイク操作:エウジェニオ・フィオーリ
録音:ロマノ・パンパローニ
音響:マリオ・ロンケッティ
電気担当:ロベルト・ベルトッツイ、フランコ・ラキーニ、カルロ・ヴィンチグエッラ
助監督:ロベルト・パリアンテ
セット助手:ロメオ・コスタンティーニ
美術助手:フランコ・ペダッキア
小道具:ランベルト・ベルデネッリ
タイトル・視覚効果:ルチアーノ・ヴィットーリ
カメラ操作:ロベルト・ブレガ
第1編集助手:チェザリーナ・カッシーニ
第2編集助手:セルジオ・フラティチェリ
第1カメラ助手:アントニオ・デ・カステル・テリアージ、レナート・マスカーノ
第2カメラ助手:マウリィオ・ラ・モニカ
管理:カルロ・デュボア
照明:ルドルフォ・フリボッティ
キーグリップ:マウリツィオ・ミガリッツイ
グリップ:ジュゼッペ・ガブリエッリ、エットーレ・ミガリッツイ、ジョバンニ・ミガリッツイ
秘書:ロベルタ・レオーニ
照明助手:アルベリコ・ロレッティ
音楽指揮:ブルーノ・ニコライ
スチール:フィルミーノ・パルミエリ
銃工:ブルーノ・ウクマール

[CAST]

videoカルロ・ジョルダーニ:ジェームス・フランシスカス
フランコ・アルノ:カール・マルデン
アンナ・テルジ:カトリーヌ・スパーク
スピミ警視:ピエール・パオロ・カッポーニ
ブラウン博士:フォルスト・フランク
ビアンカ・メルーシ:ラダ・ラシモフ
カゾーニ博士:アルド・レジアーニ
カラブレシ博士:カルロ・アリゲーロ
カメラマン、リゲット:ビットリオ・コンジア
ジジ:ウーゴ・ファンガレッジ
エッソン博士:トム・フェレジー
モンベリ:エミリオ・マルケシーニ
スピミの助手:フルビオ・ミンゴッツィ
モルセラ:コラード・オルミ
床屋:ピノ・パティ
ウンベルト・ラオ
マネラ教授:ジャックス・スタニー
タクシー運転手:ステファノ・オペディサノ
アダ・ポメッティ
ウォルター・ピネッリ
サッシャ・ヘルウィン
映画女優:マリア・ルイーゼ・ゼサ
マーシャル・ボスケロ
ロリー:チンツィア・デ・カロリス
マニュエル:ウェルナー・ポチャス
テルジ教授:ティノ・キャラーロ
ジャンニ・デ・ベネディット
アルド・パレンティ

その他の情報

ロケ地:イタリア・ローマ、トリノ

フィルムネガフォーマット:35 mm
現像:クロモスコープ(テクノスタンパ、イタリア)テクニスコープ(テクニカラー、米国)
フィルムプリントフォーマット:35 mm
画面比 2.35 : 1
日本語版監修:岡枝慎二
時間 : 98分
公開:FOX

公開年月:日本:1972年10月14日(池袋スカラ座、上野スター座にて10月20日まで1週間のみ公開、『盲目ガンマン』と同時上映)、イタリア:1971年2月11日、米国:1971年5月21日、西ドイツ:1971年7月15日、フィンランド:1972年9月22日、スウェーデン:1973年6月8日。

キネマ旬報掲載:紹介589号

ストーリー

videosleeve フランコ・アルノ(カール・マルデン)は、元新聞記者であったが、失明して記者をやめてから、パズルを作る仕事をしながら、8才になる姪ロリーと暮らしている。

 ある夜、アルノがロリーと一緒に家へ帰る途中、近くに停まっていた車の中から聞こえて来た会話がアルノの耳に入った。「ゆすりじゃない」「皆に知られても良いのか」。ロリーが見たところによると車に乗っていたのは2人の男で、口をきいたのは金髪の男であったが、相手の男は暗がりに坐っているのでどんな男かわからなかった。

 道路を距てて、アルノの家の向かいに、テルジ研究所がある。これはテルジ博士が創立した有名な学術研究所で、ここでの主なる研究題目は、人間の染色体の因子に関することである。テルジ博士の下には助手として、エッソン、カゾーニ、モンベリ、ブラウンなどトップクラスの教授たちがいる。

 その夜、この研究所に何者かが忍ぴ込み、警備員が殺された。翌日、それを発見した研究所は警官を呼んだ。だが別に貴重なものが盗み出された形跡はなかった。

 研究所に何か事件が起こったことを知ったアルノは、早速そこへ出かけて行き、たまたま取材にやって来た新聞記者ジョルダーニ(ジェームス・フランシスカス)に会った。

 前夜、通りに停まっていた車の中にいた金髪の男も、実は研究所の教授の一人で名前をカラブレシと言った。後は研究所から盗み出きれたものが何であるかを知っていた。彼は、そのことを婚約者ビアンカ(ラダ・ラシモフ)に電話で知らせた後、駅で人と会うという連絡を終えてそこへ出かけて行った。金髪の男はホームで列車の到着を待っていた。やがて列車が入って来ると突然、何者かがカラブレシを線路へ突き落とし、ちょうどそこへ入って来た列車にひかれて即死した。

 カラブレシの死は、新聞に事故死と報道され、あるカメラマンが事故の寸前に偶然に撮影した写真も掲載された。その写真をロリーが見て、カラブレシが先夜車の中に見た男と同一人物であったことを知り、アルノにそれを話した。

 アルノは、それを怪しみ、早速ジョルダーニと連絡をとり、写真のネガをよく調べてみる必要があると言い、一緒にニュース・カメラマンのラボをたずねたいとも言った。ジョルダーニは、早速カメラマンに電話で写真のネガを点検するように言った。新聞に掲載された写真は原画の一部であったのである。

 カメラマンが原画を調べると、原画の一方の端にカラブレシを突きとばした手が写っていた。彼は早速それをジョルダーニに知らせ、原画の焼きつけにとリかかった。後刻、ジョルダーニとアルノがカメラマンをたずねて行くと、すでにカメラマンは何者かによって絞殺され、カミソリで顔がメッタ切りにされていた。ジョルダーニはアルノと協力してこの殺人事件の真相を調ぺることになった。2人は手掛かりが9つあることから、この事件を9尾の猫と呼んだ。

 ジョルダーニはテルジ研究所をたずねて行き、テルジ博士と教授たちに会った。彼は、そこで初めて博士の娘アンナ(カトリーヌ・スパーク)に会う。エッソン教授は無愛想で感じが悪かったが、カゾーニ教授はやや協力的で、ジョルダーニの質問に答えて研究所が、XYYという細胞因子を是正する薬品をつくり出そうとしていることを語った。このXYY因子なるものが先天的に人間を殺人者に追いこむ原因となるという。また、ジョルダーニはモンペリ教授から、研究所側が金髪の男カラブレシが故意に何者かに殺害されたことを否定しているという事実も知った。その後、ジョルダーニはアルノの提案により、カラブレシの婚約者であったビアンカに電話をかけ、カラブレシの書類の中に、彼を殺した犯人の手掛リになるようなものはないか調べて欲しいと言った。ビアンカはカラブレシの住所録の中に怪しいものを発見したので、これを首にかけたロケットの中に入れ早速それをジョルダーニに手渡そうとしたが、彼女もまた何者かに絞殺された

 それからしばらくして、アンナがジョルダーニの家へ訪ねて来た。このときの彼女の態度は初対面の時と違い親しみが持てたばかりでなく、彼の誘いに乗り、身体をゆるした。抱き合ったあとアンナはミルクを飲もうとする。だが、そのミルクには犯人が毒を混入していた。アンナがミルクを飲む寸前、ジョルダーニは異常に気付き、アンナは一命をとりとめる。

 その後、ジョルダーニは、前科者であるが、今は真面目に新聞社の従業員として働いているジジという男の協力を得て、真夜中に研究所所長テルジ博士の邸に忍び人リ、金庫を開ける。書類を調べた結果、はからずも博士の娘のアンナが養女であったことを知ったばかりでなく、博士とアンナが、一時近親相姦的な関係を結んでいたという事実を知る。ジョルダーニは大きなショックを受けたが、同時に彼は博士とアンナが殺人事件に関し、何か重大な事実を故意に隠そうとしているに違いないと確信する。

 その後、研究所に産業スパイが潜入していたという疑いが発生し、ブラウン教授に注意が向けられることになったが、やがて教授がホモとしてきわめて派手な二重生活を営んでいたことも明るみに出た。この発見をしたのもジョルダーニであったが、早速彼が教授の家をたずねて行くと、すでに教授もまた何者かのために刺殺されていた。アルノが急に、ビアンカが殺される前に発見し、ジョルダーニに渡そうとした事件の謎を解く手掛りとなるものが、彼女が常に首にかけていたロケットの中に隠されてあったのではないかと気付く。

 その夜遅く、ジョルダーニはアルノを遵れて教会の墓地にある霊安所へ出かけて行った。ジョルダーニはアルノを入口の外に待たせ、自分ひとり霊安所に人リ、ビアンカの棺を開け、ロケットの中からアドレスを書き入れた紙片を手に入れる。だが、霊安所から外へ出ようとするところを、急に何者かに襲われ、ジョルダーニは霊安所に閉じこめられた。アルノはいつも持っている仕込杖で暴漢に傷を負わせて撃退した。暴漢の正体は不明であったが、その男は、ロリーを人質にした。ビアンカの遺体からとり出した紙片を奪い、事件から手をひかなければロリーの命はない、と捨てゼリフを残して立ち去った。これでロリーを誘拐した男が、謎の連続殺人鬼と同一人物であることが判明した。

 アルノはジョルダーニと協力して徹底的に犯人を突きとめることになり、一方ジョルダーニの友人であるスビミ警察署長も犯人検挙に乗り出した。謎の連続犯人は果して何者か。ロリーはどこに誘拐されているのか。殺人鬼の動機は何か。

 犯人は研究所の教授カゾーニだった。彼は犯罪者特有のXYY染色体の持ち主であり、それを研究所に知られたため書類を盗み出し、発覚を恐れるため次々と殺人を繰り返したのであった。カゾーニはジョルダーニを襲って怪我を負わせる。だが、遂にカゾーニはアルノに突き飛ばされ、エレベーターホールに落下して息絶えた。

ベースとなった「密室の恐怖実験」と「らせん階段」

poster 『歓びの毒牙』の世界的なヒットの後、製作資金を集めるのが容易になったアルジェントは次の作品に取り掛かった。『わたしは目撃者』である。原案はダリオ・アルジェント、ルイジ・コロ、ダルダーノ・サセッティの3人。XYY染色体のアイデアは英国のサイコ・スリラー『密室の恐怖実験』にヒントを得たといわれている。そしてロバート・シオドマク監督の『らせん階段』も参考にされた。

 イギリス映画『密室の恐怖実験(テレビ放映時タイトル:恐怖の部屋)』(68)は『戦慄の七日間』(50)『太陽に向って走れ』(56)『ふたりだけの窓』(66)を手掛けた監督・脚本ロイ・ボールティングと製作ジョン・ボールティングの兄弟コンビによるサイコ・スリラーである。バーナード・ハーマンのテーマ曲が印象的なこの映画は染色体数が通常とは異なるという遺伝病の蒙古症(ダウン症候群)を題材としている。主人公の青年は、父親を殺すために精神薄弱を装って、ある下宿に潜入する。だが下宿の娘がその計画を知ったのをきっかけに、事態は意外な方向へ展開するというストーリーは、XYYという染色体を持つ者は生来的に犯罪者の気質を有するという仮説を題材にした『わたしは目撃者』と同様に映画的には魅力的である。ただ、こうした染色体異常が犯罪と結びつくという学説は現在ではほぼ否定されていることには注意する必要があるだろう。

 『わたしは目撃者』のベースとなったもう1つの作品、アメリカ映画の『らせん階段』(45)はニューロティック・スリラーの旗手、ロバート・シオドマク 監督の代表的傑作だ。ヘレンは、ニューイングランド郊外の古い屋敷に住む病床の老婦人の世話をするため雇われた。ヘレンは子供時分に遭った火事で両親が焼死したショックから、耳は聞こえるが口がきけない。屋敷には継子のウォーレン教授、その女秘書ブランシュやアル中の家政婦などがいる。町では不具の娘を狙った連続殺人が起きており、夫人はヘレンに土地を去るよう勧める。そこへヨーロッパから実子スティーブが帰ってくる。そんな中、ブランシュが殺されるという事件が起こり、スティーブを疑ったヘレンは彼を部屋に閉じ込めるが、真相は別のところにあった、というストーリー。
 75年にイギリスでジャクリーン・ビセット主演、ピーター・コリンソン監督でリメイクもされているこの映画は口がきけないというハンデを背負った主人公の恐怖を描いている。『わたしは目撃者』の主人公は盲目の元新聞記者アルノであり、アルノは『らせん階段』のヘレンの変形といえそうだ。

 あえて苦言を呈するなら、口のきけないことの恐怖を十分に描き切った『らせん階段』に比べて、『わたしは目撃者』ではアルノの盲目であるがゆえの恐怖というものが観客にほとんど伝わって来ない。目が見えないというキャラクターを活かし切れていないところが、この映画の弱点の1つといえる。アルジェント自身は『わたしは目撃者』が好きでないと公言している。『わたしは目撃者』は仕上がりに多くの反省材料が残されたアルジェントの習作的位置付けの作品といえるだろう。

センスの良い『わたしは目撃者』という邦題

 『わたしは目撃者』という邦題は、アルフレッド・ヒッチコック監督の『わたしは告白する』(53)で神父を演じていたカール・マルデンが主役であるところから付けられたのかもしれない。

セルジオ・レオーネと同系列の作品との位置付け

 アルジェント自身は、わたしは目撃者をヒッチコック作品というよりもむしろ、セルジオ・レオーネのマカロニ・ウエスタンと同一のカテゴリーに属する作品と位置付けており、レオーネが西部劇に盛り込んだ暴力というものをスリラー映画に移したのがわたしは目撃者だと説明している。

バージョン違い

 日本コロムビアが発売した英語版ビデオ、LDとカルチュア・パブリッシャーズ発売のイタリア語版ビデオ、DVDがある。

各映画ガイドによるストーリー紹介

 各映画ガイドにおける作品紹介を比較する。短いコメント文でも、筆者の見解が分かれるのは興味深い。

ホラーの逆襲の紹介文 

 染色体研究所から、犯罪者に多いといわれるXYY染色体の所持者データが盗まれ、その周辺で次々に殺人事件が起きていく。元新聞記者の盲人と、八歳の姪という主人公の設定か興味深い。ヒッチコックの『私は告白する』(53)で神父を演じていたカール・マルデンが主役というところから邦題が考え出されたか。エレベーターのシーンが秀逸。原題の意味は”九尾の猫”。  

ぴあシネマクラブの紹介文

 染色体の研究で知られるテルジ研究所の学者が言い争っているのを偶然耳にした盲目のアルノ。元新聞記者だった彼は事件の気配を感じて、後輩記者のジョーダンに応援を求め調査を開始するが、関係者は次々と殺されていく……。ホラー味がにじむアルジェントのスリラー。

チラシ裏面の解説文

 謎の連続殺人事件に少女誘拐事件をからませたサスペンス映画で、事件の真相追求に乗リ出した新聞記者と、それを助けて鋭い盲人のカンを働かせる元新聞記者の活躍が面白く描き出される。「歓びの毒牙」のサルバトーレ・アルジェント製作の下に、同じくイタリア出身の新人で「歓びの毒牙」を放ったダリオ・アルジェントが脚本の執筆と演出を行なった。

 音楽は、「夕陽のガンマン」、「さすらいのガンマン」以来おなじみとなリ、数々のイタリア映画のために作曲しているエンニオ・モリコーネが担当し、同じくイタリア出身のエンリコ・メンチエールが撮影した。主演者は「若き日の恋」、「続・猿の惑星」のジェームス・フランシスカス、「西部開拓史」、「ネバダ・スミス」、「サイレンサー/殺人部隊」、「ホテル」、「パットン大戦車軍団」のカール・マルデン、同じく「ホテル」、「女性上位時代」、「痴情の森」のカトリーヌ・スパークである。

全洋画の解説文
 盲目の元新聞記者(マルデン)と現役新聞記者(フランシスカス)の二人が、染色体研究所にからんで起きた連続殺人の謎に挑むサイコ・スリラー。ユニークな設定と、E・モリコーネの音楽とあいまった雰囲気造りは悪くないが、脚本が整理されていないためのストーリーの混乱具合は後のアルジェント作品にも共通するウィーク・ポイント。

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